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労働災害と保護具:防毒・防じんマスクの基礎知識1

防毒・防じんマスクの基礎知識

更新日:2020年8月20日(初回投稿)
著者:半田化学プラント安全研究所 代表 半田 安(はんだ やすし)

仕事中にけがや健康障害を受ける災害を、労働災害といいます。この労働災害から身を守るには、保護具を使います。頭部を守るにはヘルメット、高い所からの落下を防ぐには安全ベルトなどの保護具が有効です。そして、有毒ガスや粉じんなどによる、呼吸器への労働災害を防ぐには、防毒・防じんマスクなどの保護具が使われます。本連載では、全6回にわたり、口や鼻からの異物の侵入を防ぐ防毒・防じんマスクの基礎知識を解説します。第1回は、労働災害の種類と、保護具全般に関して解説します。

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1. 労働災害と保護具

工場や工事現場などで働いていると、危険なことに遭遇する場合が少なからずあります。つまずいたり、転んだり、高い所から落ちたりすると、手や足など体の一部にけがをしてしまいます(図1)。これは、作業現場に潜んでいる危険に気付いていないためです。案外、人間は目の前にある危険に注意を向けておらず、けがをして初めて、危険であることが分かるのです。

図1:労働災害

図1:労働災害

例えば、不安定な作業台の上に乗って作業をしていれば、そこから落ちてけがをすることもあります(図2)。いつもやっている作業だから大丈夫、と思い込み、注意をしていないためです。しかし、今まで事故が起こらなかったのは、たまたま運が良かったか、条件が良かったからです。労働災害に関して、絶対に大丈夫というのは通用しません。

図2:作業台からの転落

図2:作業台からの転落

けがだけならば、多くの場合、時間がたてば回復します。しかし、高い所から落ちる墜落、転落という労働災害は、けがだけでなく、死亡事故につながることもあります。2mを超える高さから落下すれば、人は死亡することもあるといわれています。高くなればなるほど、落ちたときの衝撃が大きくなるからです。

物が落ちてきて、けがをする労働災害もあります。歩いているときに、何かにつまずいて転倒する労働災害もあります。重力があれば、人や物は落下します。バランスを崩せば、人は転倒するのです。さらに、温度の高い物に触れれば、やけどという労働災害になります。このように、世の中で起こる労働災害にはパターンがあります。そうしたさまざまな労働災害は21種類に区分できます(表1)。

表1:現場で発生する21の労働災害のパターン

表1:現場で発生する21の労働災害のパターン

労働災害は、注意することで100%防げるとは限りません。当然、万一のことを考え、被害を最小限に抑えるための備えが必要です。労働災害から身を守るために必要な道具を、保護具と呼びます。例えば、もし高い所から落ちても、保護具であるヘルメットを被っていれば、頭部を守り被害を最小限にできる可能性があります(図3)。

図3:ヘルメット

図3:ヘルメット

足の上に重たい物が落ちてきても、安全靴を履いていれば、つま先を守ることができます。安全靴も、足を守る保護具の一種です。このように、世の中には災害から身を守る、さまざまな保護具があります。

2. 呼吸器系労働災害

呼吸器系の労働災害は、口や鼻からの異物の侵入による労働災害です。表1で紹介した災害パターンの12番「酸欠、中毒」と20番「粉じん」という3つの労働災害が該当します。酸欠とは、酸素欠乏症という言葉を略したもので、口から入る酸素の量が不足して起こる労働災害です。空気中の酸素が不足するような場所で作業をしている場合に発生します。通常、空気中には約21%の酸素が含まれています。人は、呼吸によってこの酸素を取り込んで生きています。このため、酸素濃度が下がってくると、体調が悪くなってしまいます。酸素濃度18%程度までは、問題ありません。ところが、濃度が16%程度になると、頭痛や吐き気を覚えるようになります。さらに濃度10%程度まで下がると、意識が無くなり始めます(図4)。酸素濃度が10%以下になってしまうと、呼吸ができず死に至ることもあります。このように酸欠は、呼吸器系の中でも非常に危険な労働災害です。

図4:酸欠で意識を失うこともある

図4:酸欠で意識を失うこともある

2つめの呼吸器系労働災害は、有毒なガスを吸い込むことで起こる中毒です。作業場所で、人体に有害なガスが発生していれば、いわゆるガス中毒が起こります。作業場所によっては、さまざまなガスが発生している場合があります。ガス中毒が発生する恐れのある場所では、防毒マスクの使用について、労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則で定められています(図5)。

図5:防毒マスク

図5:防毒マスク

3つめの呼吸器系労働災害のパターンは、粉じん(細かな固体粒子)やミスト(細かな液体粒子)を、口や鼻から吸い込んで起こるものです。作業中、粉じんなどを吸い続けることで、気管支や肺に健康障害を起こしてしまいます。粉じんの発生する作業場所では、防じんマスクを使用してください(図6)。

図6:防じんマスクを着用している作業員

図6:防じんマスクを着用している作業員

吸い込んだ粉じんは、肺の中に蓄積し、細胞に害を与えることがあります。石綿(アスベスト)のような粉じんを吸い込むと、肺がんなどを起こす場合もあります。粉体を取り扱う作業での微粉、金属を削る作業で発生する微細な金属粉などでも、粉じんによる労働災害が発生します。現在、石綿の製造や使用は禁止されています。しかし、規制の前に使われていた石綿を解体除去する作業では、粉じんが発生します。危険な石綿を扱う作業では、適切な呼吸器系の保護具を使う必要があります。

3. 呼吸器用保護具の選定

作業場所により、使える保護具は変わってきます。呼吸器用保護具を選定するときに大事な判断要素は、作業する場所に空気があるかないかということです。一般的な呼吸器用保護具は、酸素のある場所で使うことを前提に設計されています。酸素がない、あるいは濃度の低い場所では、呼吸器用保護具の選定を間違えると、酸欠事故を起こしてしまいます。通常の防毒マスクは、自ら酸素を供給することはできません。吸い込んだ空気に含まれる毒性ガスを単純に取り除く、つまり、空気をろ過する機能しかありません。このため、酸素の少ない場所で作業を続けていると、酸素不足になってしまうのです。単純にガスを取り除くだけのろ過式の防毒マスクは、酸素濃度が18%未満のところでは使えません。

呼吸器用保護具の選定には、大きく2つのポイントがあります。1つは、先に述べたように、作業場所での酸素の有無です。酸素のあるところとない所では、使用する保護具が全く異なります。酸素がある環境では、一般的に使用されているろ過式のマスクを選定します。酸素がないか少ない作業場所の場合は、必ず「給気式」と呼ばれる、外部から空気を供給してくれる方式のものを選定します。選定を誤ると、酸欠という死亡事故にもつながるので、細心の注意が必要です。

2つめのポイントは、作業場所で発生する有毒ガスや粉じんの濃度です。防毒マスクは、万能ではありません。高濃度のガスでは、十分にろ過することはできません。防じんマスクも同じです。粉じん濃度が高ければ、短時間でろ過能力が失われてしまいます。防毒・防じんマスクは、必ず有毒ガスや粉じんの濃度に対応したものを選定してください。

防毒マスクや防じんマスクなど、呼吸器用保護具の選定に当たっては、何よりも作業場所の状況を詳しく調べる必要があります。酸素があるかないかは、重要なポイントです。有毒ガスであれば、ガスの種類と濃度です。粉じんであれば、粉じんの種類や濃度を事前に調べてください。作業場所を、常に安全な環境にしておくことも大切です。作業する場所のガス濃度や粉じん濃度を、できるだけ下げるようにしましょう。送風機などで、危険なガスや粉じんを排除することが可能であれば、ぜひやってみてください。有毒ガス濃度や粉じん量が少なくなれば、保護具をより安全な環境で使うことができるようになり、使用できる時間も長くなります。呼吸器用保護具の使用に当たっては、安全な作業環境を作ることも、重要なポイントと考えておいてください。

いかがでしたか? 今回は、さまざまな労働災害と、そこから身を守るための保護具、そしてその選定基準を解説しました。次回は、防毒マスクの種類について、より詳しく解説します。お楽しみに!

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