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スマートシティの本来の意味:国際的スマートシティの基礎知識1

国際的スマートシティの基礎知識

更新日:2022年7月19日(初回投稿)
著者:亜細亜大学 都市創造学部 都市創造学科 教授 岡村 久和

スマートシティの解釈は、日本と海外とでは大きく異なります。日本独自に言葉を解釈し、世界に大きく立ち遅れたガラパゴス的なその進化と、一方で巨大産業になった国際的スマートシティの違いを正確に理解すれば、日本には素晴らしい成功と未来が待っています。スマートシティとは、本来、何を意味する言葉なのでしょうか? 世界では何が起きていて、日本は何をしなければならないのでしょうか? 本連載では6回にわたり、国際的スマートシティについて解説します。

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1. 「スマートシティ」の本来の意味

スマートシティという言葉は、「ビッグデータ」や「IOT」など海外から入ってビジネス界で流行する言葉と同様、英語本来の意味が理解され、使われているとは思えません。それぞれの企業やコンサルタント、記事や論評だけでなく、実際のプロジェクトの参加者にも、その共通した考え方が分かりにくく、結果として、多くの解釈があっていいと締めくくられてしまうことが多いように感じます。国際的には、より良いまちづくりの産業と解釈されています(図1)。

ここでは、外来語である「Smartcity」をルーツとするカタカナビジネス用語の「スマートシティ」とは何か考えてみましょう。

図1:Smartcityはより良いまちづくり産業

図1:Smartcityはより良いまちづくり産業

実は、Smartという英単語に正確に対応する日本語はありません。Good(良い)、Bad(悪い)のような意味がはっきりした単語とは異なります。筆者は、単語の意味を英語ネイティブのビジネスマンと議論したことがあります。彼らのSmartのニュアンスは、「Clever(賢い)+Good(良い)+他より良い(Better)」というものでした。Clever、Good、Betterの意味は、似てはいるものの、それぞれ微妙に意味が異なります。

2008年8月、筆者が日本IBMで、スマートシティビジネスの前身となった環境関連ビジネス事業を進めていたときのことです。大きなマーケティングキャンペーン戦略の位置付けとして、アメリカの本社から「Smart」という言葉がやってきました。私たちは、4か月後の同年12月に、「Smarter Planetとその一部のSmartercity」として発表しました(諸事情につき、Smartではなく、Smarterという単語を使いました。ただし、企画の段階ではSmartです)。今から14年も前のことです。そのころ、Smartという単語は、日本人には全く馴染(なじ)みがありませんでした。唯一使われていたのは、主に人の体型に対して使うスマート(痩せてすらっとしている)という意味でした。

私たちは、企画の段階で、そのキャンペーンの宣伝や商品名に、この単語をどのように翻訳して使うかということを、何度も話し合いました。従来の「痩せた」では、全く意味が異なります。出た結論は、「賢い」でした。結果、「賢いまち」のように表現することになりました。

Smartという単語の翻訳について深く語るのには、大きな理由があります。この単語の解釈に、日本のスマートシティビジネスへの参入を遅らせた原因が、一部あるのです。Smartは、ごく普通の英単語です。前述のようにシンプルに訳すと、「賢くて、より良い」のようなニュアンスとなります。同様に、Cityも特別な単語ではありません。大阪市や名古屋市のような行政区域の定義として使われる他、Cityboyのように「都会的」の意味で使われることもあります。

英語のCityが持つ実際のニュアンスは、「人が集まって暮らしている状態や場所」です。Citizenは「市民」や「人々」と訳されます。ただし、ここには「都会人」という意味はありません。Citizen(市民や人々)が集まるところがCityなのです。これを踏まえて、先ほどのSmartとCityを合わせたSmartcityを考えると、「賢くてより良い、人が集まるところ」というニュアンスになります。

2. 日本と国際スマートシティ解釈の違い

日本でスマートシティといえば、「ハイテクやITのスマートシティ」のように使われ、特定の自治体に最先端のITやハイテクを持ち込んで、未来都市のような取り組みをしている現場といったニュアンスがあります。いわば、政府や自治体が提案書を作成し、公的補助金獲得を目指し、競争し、新たな取り組みにより実証実験が行われる地域を指しています。国から供出された多額の補助金によって都市OSというITが整備され、また、先進医療や自動運転などが実証実験されるなど、他とは違う先進的な取り組みがなされているというニュアンスです。このような解釈で、十数年来、日本のスマートシティは進められています。

一方で、国際的なスマートシティの解釈は、「賢くより良いまちを作ること」です。それは非常にシンプルなことです。「賢い」何かの技術があり、今「より良い」、または良くなる「人の集まるところ」で行われる「ビジネス」です。すなわち、「賢くより良いまちづくりビジネス」ということができます。

ここで、読者の皆さんに考えてもらいたい質問があります。それは、「スマートシティプロジェクトに、あなたの企業、またはあなた自身が参画できる余地があると感じますか」という質問です。あなたがIT企業の社員だったり、自動運転を模索している企業の社員だったりすれば、日本的スマートシティへの参画余地はあるかもしれません。しかし、あなたが飲食業や、サービス業であったら、スマートシティプロジェクトへの直接参画のイメージは湧かないのではないでしょうか? このイメージが湧かないという点が、日本と国際的スマートシティの解釈の違いがもたらす大きな問題であるといえます。

3. 国際的にはまちづくりの産業

スマートシティについて、日本での解釈と、国際的解釈が別々に存在すると、何が問題となるのでしょうか? 通常、ビジネス用語の解釈が違っても、実際の活動には、さほど大きな影響は生じません。しかし、その言葉が、産業自体を定義するものである場合、それがもたらす影響には、大きな差が生まれます。そして、国際的スマートシティとは、巨大な産業を表す言葉なのです。

図2は、2012年に日経BP社と協力して作成したスマートシティの産業規模と予測を示すグラフです。このグラフの数値は、国際的なスマートシティの定義に基づいて計算されています。すなわち、まちを作るためのさまざまな産業とビジネスの合算を表しているといえます。2015年で既に700兆円規模のビジネスであることと、その実施エリアの約半分がアジアであることが大きなポイントです。グラフの詳細な解釈はここでは割愛するものの、市場規模の大きさと、アジアという場所について覚えておいてください。

図2:スマートシティの国・地域別累計市場

図2:スマートシティの国・地域別累計市場(参考:日経BPクリーンテック研究所、世界スマートシティ総覧2012、日経BP社)

この市場規模の大きさが示すように、国際的な解釈でのスマートシティ、すなわち、より良いまちに関連した産業は、ITやハイテクといった狭い解釈での業種に特定されません。まちには、電車やバス、美術館や博物館、スーパーマーケットやコンビニ、幼稚園や大学など、ビジネスを営んでいる途方もない数の企業が存在します。また、それ以外にも社会があり、さまざまな経済活動が行われています。国際的なスマートシティの定義は、この広い考え方そのものです。すなわち、まちに存在するありとあらゆる産業にスマートシティに参入できる場所や機会があり、より良いまちづくりのための、多種多様な提案とビジネスチャンスがあるといえるのです。

図3に示す写真は、ポーランドのある市の、市役所の前に作られたスケートボードパークです。このスケートボードパークも、スマートシティプロジェクトの一環です。

図3:ポーランド、リジュ市役所の前に作られたスケートボードパーク

図3:ポーランド、リジュ市役所の前に作られたスケートボードパーク(リジュ市広報担当者より入手、2015年)

また、リジュのスマートシティプロジェクトでは、図4に示すような近未来的な歩道橋も作られています。

図4:ポーランド、リジュの近未来的な歩道橋

図4:ポーランド、リジュの近未来的な歩道橋(リジュ市広報担当者より入手、2015年)

他にも、駅に市役所の出張所を作るなど、市民へのサービスやビジネスを前提に、より良いまちづくりのためにさまざまな団体や企業が参加しています。もちろん中には、ITやハイテクのプロジェクトも存在します。しかし、それはほんの一部で、人の暮らしを取り巻く大きな規模の流れに沿った試みにより、より良いまちづくりを目指しています。

ここで、まちにもたらされるビジネス規模を想像してみましょう。このスケートボードパークを作るためにも、建築設計、コース設計、セメント施工、不動産など、単に土木工事を行う企業だけではなく、プロのスケートボードアドバイザーや子供や大人の聞き取り調査企業などが必要となります。その他、利用手続きや認可などを行う行政など、さらなる多種多様な企業や団体がそれぞれのビジネスとして関わり、利益を得ています。重要なのは、それを再度まちに還元し、持続可能なまちづくりビジネスの循環が起きていることです。

例えば、このスケートボードパークの建設には、数千万円から数億円が必要と考えられます。歩道橋の建設にも、同様の資金が動いているはずです。このように、国際的スマートシティプロジェクトでは、まちのあちこちで、さまざまな産業が事業を展開するため、ビジネス規模は非常に大きくなります。そして健全な利益を確保することを前提として、プロジェクトが組み立てられているのです。

いかがでしたか? 今回は、スマートシティの本来の意味に基づき、国際的スマートシティ産業について紹介しました。国際的スマートシティ産業には、市民の満足度やまちの哲学があります。また、日本固有のIT企業のシステム作りや、ハイテクの実証実験に公費を使うスマートシティとは、規模も、企業種類の裾野の広さも全く違うことが理解できたと思います。次回は、国際的なスマートシティについて詳しく解説します。お楽しみに!

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