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暑熱環境下における暑さ対策の必要性:工場の暑さ対策の基礎知識1

工場の暑さ対策の基礎知識

更新日:2021年6月1日(初回投稿)
著者:横浜国立大学 教育学部 学校教育課程 保健体育 教授 田中 英登

1980年代以降、国内における熱中症の死亡者数・搬送者数の増加が報告されています。熱中症は暑熱障害の総称とされ、暑熱環境が原因で起こります。暑熱環境は、熱中症のような障害発症の原因となるだけでなく、体内状態の変化により、作業のパフォーマンスにも強く影響します。本連載では、暑さ対策の基礎知識として、暑熱環境における障害発生の状況、発生機構、および作業パフォーマンスの低下について解説します。

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1. 暑熱環境下における体への影響

暑熱環境は、熱中症障害の発生や、運動や作業のパフォーマンスに影響します。暑熱環境とは、どのような環境を指すのでしょうか。一般に、身体に負荷となる物理的な環境関連因子として、気温、湿度、輻射(ふくしゃ)熱、気流の4因子が挙げられます(図1)。

図1:暑熱環境の4因子

図1:暑熱環境の4因子

・気温
気温は、大気の温度です。体熱の移動は、単純に、体表の温度と大気の温度(気温)との差で決まります。体表の温度は、皮膚表面下を走行する皮膚血管拡張反応によって決まり、約30~35℃です。この皮膚温よりも気温が低ければ、体熱は体外に放散され、高ければ体内に蓄熱されます。

・湿度
湿度は、大気中の水分量を示す指標です。人は体表面に汗を出し、汗が気化することにより、体熱を体外に放散させる仕組みを持っています。また、相対湿度は、その気温条件における大気中に存在できる水分量を百分率で示したもので、皮膚表面上に出た汗の蒸発に影響します。すなわち、湿度が高ければ、体熱が放散されにくくなるため、熱ストレスが大きくなる条件となります。

・輻射熱
輻射熱は、温度の高い物体から低い物体に、電磁波によって伝わる熱です。代表的な輻射熱は太陽光によるものです。屋内にいる場合は、体表温度と温度差のある物体(壁や暖房器具など)が輻射熱の元となります。夏季には太陽からの輻射熱量が増加するため、屋外にいるときは、特に体への熱ストレス量に影響する因子といえます。一般に、気象庁などが出している気温の予報は、日陰で風通しのよい輻射熱のない場所を想定しているので、日射のある屋外状況では、より大きな熱ストレスが体に加わることを理解しておく必要があります。

・気流
気流は、大気の流れを指し、熱ストレスの面からも影響があります。体の周りには体熱によって暖められた層ができ、その層を気流の流れが取り除くことにより、体表面付近の空気中の温度が下がります。また、先に述べたように、体表面に出た汗は蒸発することで体熱を下げます。このとき、気流があると水分蒸発を促進させ、熱ストレスを軽減させる要因となります。

このように、気温、湿度、輻射熱、および気流は、体に負荷を及ぼす熱ストレスを決める重要環境因子であることが分かりました。こうした環境条件により、その環境が体に負荷をかける熱ストレスが高いか否かが決まります。近年では、暑さ対策としてのこれらの環境因子を測定することが重要とされています。特に、これらの因子を総合的に評価する環境指標として、WBGT(Wet Bulb Glove Temperature:湿球黒球温度)が使われています(環境省は、暑さ指数とも呼んでいます)。この指標は、以下のように屋外の輻射熱がある場合と、屋内の場合に分けて算出されます。

屋外WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度
屋内WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

近年では、WBGT測定器も市販されています(図2)。実際の労働現場の環境測定をすることは、暑さ対策の基本と考えるべきでしょう。

図2:WBGT計(固定型、携帯型)

図2:WBGT計(固定型、携帯型)

2. 暑熱障害(熱中症)の発生機構

近年の夏季の猛暑環境下においては、熱中症は増加傾向にあり、労働現場において一定数以上の死傷者が出ています(図3)。

図3:労働現場における熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル2018)

図3:労働現場における熱中症発生数(参考:環境省、熱中症環境保健マニュアル2018)

熱中症は、暑熱環境による外的熱ストレスと、活動(運動や作業など)による内的熱ストレスが加わることにより発生します。特に、内的熱ストレスは、運動などを行う場合、筋収縮運動を起こすために産生されたエネルギーの約70%が少なくとも体熱に変わるため、運動をすればするほど熱ストレス量が多くなります。例えば、やや激しい運動を60分するだけで、体温が約8℃上昇する熱量が作られます。もちろん、私たちの体には体温調節機能が備わっており、体温が過剰に上昇しないよう、発汗や皮膚血管拡張反応などの熱放散反応が起こります。

図4は、暑熱環境下での作業など、活動時の熱中症発生機構を示します。熱中症は、体内の変化過程によって大きく熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病の4つに分類されます。

図4:熱中症の発生機序

図4:熱中症の発生機序

・熱失神
熱失神は、脳血流の減少により起こり、めまい、ふらつき、失神などの症状が出ます。例えば、冷房の効いた部屋から気温が高い屋外に出たとき、熱放散を行おうと急激に皮膚血流を多くするため、中心血圧が一過性に低下することにより熱失神が起こります。また、準備運動などで末梢の筋血流が増加した後に、あいさつや説明などで直立不動の状態でいると、血液が末端に貯留し、同様に一過性の低血圧を招くので注意が必要です。

・熱疲労
熱疲労は、軽度の体温上昇と発汗による脱水が原因となって生じます。症状としては、集中力の欠如、頭痛、吐き気などがあり、軽度から中等度までさまざまです。

・熱けいれん
熱けいれんは、発汗により汗成分のNa量が体内から減少することにより起こります。筋の局部的な痛みを伴うのが特徴です。

・熱射病
熱射病は、これまで述べてきた3つの症状が、単独に、あるいは複合的に重症化した状態です。体温が40℃以上になる高体温を示し、致死率が高くなります。

このように、暑熱障害(熱中症)は、今日の日本国内における夏季の環境では簡単に起こりうる障害であり、十分な対策を行うことが必要です。

3. 高体温と作業パフォーマンス

持続的な作業は、暑熱環境下において体温が継続的に上昇し、高体温となるため、作業可能持続時間が短縮します。また、精神作業においても、集中力が散漫となりやすく、作業能力が低下することが示されています(図5)。

図5:高体温と作業能力(直腸温の変化、課題切り替え時間)(参考:風間彬ら、体温上昇が持久的運動時における認知機能に及ぼす影響、体力科学61(5)、2012から改編)

図5:高体温と作業能力(直腸温の変化、課題切り替え時間)(参考:風間彬ら、体温上昇が持久的運動時における認知機能に及ぼす影響、体力科学61(5)、2012から改編)

このように暑熱環境は、前述したような暑熱障害を起こさなくとも、さまざまな作業パフォーマンスに影響を及ぼすことがよく知られています。暑熱環境下での作業時には、短時間作業を行い、休憩を多くとることにより、作業パフォーマンスの低下を少しでも少なくする必要があります。

いかがでしたか? 今回は、暑熱障害の種類と、作業パフォーマンスへの影響を紹介しました。夏の現場では、障害が発生しないように対策しなければなりません。次回からは、具体的な暑さ対策を解説します。お楽しみに!

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