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量子コンピュータのハードウェア開発:量子コンピュータの基礎知識5

量子コンピュータの基礎知識

更新日:2022年7月29日(初回投稿)
著者:東京大学 大学院 工学系研究科 物理工学専攻 准教授 武田 俊太郎

前回は、量子コンピュータのインパクトや具体的な用途を紹介しました。今回は、量子コンピュータのハードウェアの開発状況と、課題について説明します。

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1. 量子コンピュータのさまざまな開発方式

現在、世界では、さまざまな方式で量子コンピュータ開発が進められています。最も有名なのは、GoogleやIBMなどが採用している「超伝導回路」方式です。この方式では、電気回路のチップを極めて低い温度に冷やし、電気抵抗ゼロの超伝導状態にすることで、量子コンピュータとして動作させます。IBMは2021年に、超伝導回路で127量子ビットを搭載した量子コンピュータを開発したことを発表しています。

超伝導回路方式は、現在最も主流であり、研究も進んでいます。しかし、実際には他にもさまざまな開発方式があり、今後全く新しい方式が台頭してくる可能性もあります。量子コンピュータ開発はまだスタートラインに立ったばかりで、例えるなら山登りの1~2合目付近です。どの方式が本命とも定まっていない状況です。

現代のコンピュータは、トランジスタという電気スイッチのONとOFFでビットの0か1の情報を表し、それをたくさんつなげて制御することで、加減乗除などの計算を行う装置です。同様に、量子コンピュータを作るには、トランジスタの代わりに、何らかのものを使って「0と1の重ね合わせ」である量子ビットを表現し、制御するような装置を作らなくてはなりません。

量子ビットを表すには、重ね合わせになるもの、つまり、量子なら何でも候補になり得ます。量子には、原子や電子、光の粒である光子など無数の選択肢があり、どれを選ぶかによって、見た目も動作の仕方も全く異なるさまざまな量子コンピュータを作ることができるのです。代表的な方式としては、超伝導回路方式、イオン方式、半導体方式、光方式の4つがあります(表1)。どの方式にも特有の利点や欠点があり、万能な方式はありません。

表1:さまざまな量子コンピュータの開発方式
開発方式 超伝導回路方式 イオン方式 半導体方式 光方式
量子ビットの実現方法 低温で超伝導状態にした回路を利用 真空の容器内で空中に浮かべた原子(イオン)を利用 シリコンなどの半導体の中に閉じ込めた電子を利用 光の速度で進む光子を利用
主な特徴 最も主流で開発が進んでおり、最大100量子ビット程度の実機が実現 量子ビットの操作性や操作精度に優れ、超伝導方式を追随 既存の半導体技術を利用した量子ビットの高密度集積化に期待 低温・真空環境が不要で通信も容易に行える独特の利点あり
取り組む企業 Google、IBM、Intel、アリババなど Honeywell、IonQなど  Intelなど PsiQuantum、Xanaduなど

2. 量子コンピュータ開発の難しさ

量子コンピュータの開発方式は、多数あります。ただし、どのような開発方式を選んだとしても、量子コンピュータの開発は困難を極めます。その共通する理由は、量子がとてもデリケートで、エラーに弱いということです。現代のコンピュータでビットの情報を表すトランジスタは、エラーに強い設計になっており、多少の雑音や製造誤差などがあってもONとOFFがひっくり返って情報が損なわれてしまうことはありません。

一方で、量子は周囲からのちょっとした雑音や制御の不完全性を受けると、簡単に情報が損なわれてしまい、正しい計算ができなくなります。量子コンピュータを作るということは、世の中のものの最小単位である量子一つ一つを、雑音のないクリーンな環境に置き、量子ビットの情報を持たせ、精密に制御して計算をさせるということです。これを実現するには、人類史上ない究極のテクノロジーが必要です。

これまで数十年の研究の歴史の中で、人類は量子の持つ情報を壊さないよう、守りながら正確に操るノウハウを少しずつ蓄積してきました。この結果、冒頭で述べたように、最近は最大で約100個の量子を同時に操れる装置、すなわち100量子ビット級の量子コンピュータが生み出されています。

皆さんは、「100個の量子ビットを搭載したマシンが作れるなら、それをたくさんつなげていけば大規模な量子コンピュータが作れるのでは?」と思うかもしれません。しかし、残念ながら話はそれほど単純ではありません。量子ビットを増やすほど、雑音が混ざりやすくなったり、正確な制御が難しくなったりして、正しい計算を行うことは加速的に難しくなります。今の技術の単なる延長では、大規模な量子コンピュータは作ることができません。

3. 量子コンピュータにはエラー訂正が必須

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