感染症を正しく知る:職場の感染症対策の基礎知識1
投稿日:
- 2020年12月23日
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カテゴリ:
- 基礎知識
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未知の感染症である新型コロナウイルス感染症の流行は、またたく間にパンデミック(世界的な大流行)となり、日本もその例外ではありません。この冬以降、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念される中、更なる流行から職場を守るためには、この新たな感染症を改めて正しく理解し、求められる感染予防対策を着実に実行することが必要です。本連載では、全6回にわたり、職場における感染症対策の基礎知識を解説します。第1回は、感染症の正しい知識を紹介します。
1. 知識のワクチン~正しく恐れるためには正確な情報が必須
知識のワクチンとは、感染症と戦うために必要な知識をいいます。感染症対策の第一歩は正しい知識を身につけることです。しかし、新型コロナウイルス感染症のような、未知の感染症が発生する時期を正確に予測することは難しく、また、その発生そのものを止めることもできません。さらに、そのような感染症が発生した際、私たちが冷静に行動できるとは限りません。
実際、今回の新型コロナウイルス感染症の場合でも、電車内ではほとんどの乗客がマスクを着用し、咳(せき)をすることもためらわれるような雰囲気がありました(図1)。新しく登場した感染症ということで、病原性や致死率などその詳細が分からず、まだ治療薬やワクチンも開発されていない状況であったため、多くの人が不安にかられたことがその理由の1つと考えられます。
また、「これを食べれば大丈夫」「この薬が効く」など、今から考えればあやしい情報が広がり、WHO(世界保健機関)は根拠のない情報が大量に拡散される「インフォデミック」に警鐘を鳴らしました。
私たちには、未知の感染症に対する正確な情報を、厚生労働省や国立感染症研究所などの信頼できるところから適切に入手した上で、正しく恐れることが求められています。
2. 新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザ~同時流行に備える
現在も流行が続く新型コロナウイルス感染症は、冬の時期を迎えてから、残念なことにさらに大きな流行の波を起こしています。そして、季節性インフルエンザの流行期と重なることで、さらに重大な事態となることが懸念されます。
表1に、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの特徴を示します。双方に発熱症状があるため、どちらに感染しているのか、症状だけから見分けることは困難です。そのため、日本感染症学会が8月3日に発表した提言においては、医療機関に対して、できる限り新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの両方の検査の実施を推奨しています。
新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行が懸念される中、厚生労働省は、季節性インフルエンザのワクチンを必要性が高い人に確実に届くよう、対象者別に接種時期を設定しています。
具体的には、「65歳以上の人」および「60歳から65歳未満の慢性高度心・腎・呼吸機能不全者などの人」については、10月1日から、そしてそれ以外の人は10月26日から接種するよう協力を求めています。ただ、季節性インフルエンザのワクチンは、重症化予防などの効果がある一方で発病を必ず防ぐものではなく、接種時の体調によって副反応が生じる場合があります。ワクチン接種に当たって医師に相談するとともに、接種後に体調に異変が生じた場合も、速やかに医療機関に相談することが必要です。
3. 感染経路を知る~感染経路を理解し、それを断つ
新型コロナウイルス感染症の主な感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」であると考えられます(表2)。
これらの感染経路を断つことができれば、感染の拡大を防ぐことが可能です。具体的な対策としては、「人と人との距離をとること(Social distancing:社会的距離)」、「マスクの着用や咳エチケット」、そして「石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒の励行」などが考えられます。閉鎖空間において近距離で多くの人と会話するなどの状況があると、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされていることから、家やオフィスにおいて「十分な換気」を行うことも求められています。
2019年冬から2020年春にかけての季節性インフルエンザは、例年に比べて、流行の規模が小さいまま終わりました。これは、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策として行ったことが、そのまま季節性インフルエンザに対しても有効であったと考えられています。今後の同時流行の可能性に備えて、必要な感染予防対策を着実に行うことが重要です。
いかがでしたか? 今回は、新型コロナウイルス感染症に関する正しい知識を持つことの大切さ、そして季節性インフルエンザとの違いや感染ルートについて解説しました。次回は、流行の長期化が予測される新型コロナウイルス感染症に対して、私たちが備えておくべきことを紹介します。お楽しみに!