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熟練ハンドレイアップ技術者の眼球運動解析:データで伝える!熟練技術者の勘所6

データで伝える!熟練技術者の勘所

更新日:2017年6月13日(初回投稿)
著者:京都工芸繊維大学 伝統みらい教育研究センター センター長 濱田 泰以

前回は、試作車のボディーを手作業で作る板金職人の技術を紹介しました。今回は最終回です。FRP(繊維強化プラスチック)のハンドレイアップ成形の熟練技術者の眼球運動解析に迫ります。

1. FRPとは?ハンドレイアップ成形とは?

FRP(Fiber Reinforced Plastic:繊維強化プラスチック)は、ガラス繊維などの繊維素材をプラスチック樹脂に入れて固めて成形し、強度を向上させた材料です。船舶や航空機、住宅機器など、私たちの暮らしと関係のある製品にも広く使用されています。

FRPの成形方法は数多くあり、材料や生産数、製品のサイズなどから適切な成形方法を選択します。その中でも、ハンドレイアップ成形は最も一般的な成型方法です。他の成形方法はハンドレイアップ成形の考え方を基に発展させたものです。図1に、ハンドレイアップ成形の概要を示します。

図1:ハンドレイアップ成形

図1:ハンドレイアップ成形(出典:三垣賢和、ハンドレイアップ成形法において熟練者が持つ暗黙知を形式知化するための工程分析、京都工芸繊維大学修士学位論文、2016年)

ハンドレイアップ成形はまず、離型処理を行った型にスプレーガンなどであらかじめゲルコート樹脂を吹き付けます。こうすることで、製品表面に繊維がむき出しになるのを防ぎます。また、着色が可能なので、製品に意匠性を持たせることもできます。

次に、型にガラス繊維を貼り、液状のプラスチック樹脂をローラで塗って染み込ませます。ガラス繊維に樹脂を染み込ませることを、含浸といいます。ガラス繊維に樹脂を含浸させたら、ガラス繊維と樹脂の間にある空気をローラで押し出します。この作業を脱泡といいます。ガラス繊維を積み重ね、目的の厚さになるまで含浸と脱泡を繰り返します。成形後に樹脂を硬化させ、型から抜けば製品ができあがります。

ハンドレイアップ成形は、特殊な機械などが不要です。そのため、少ない設備投資で大型製品や生産数が少ない製品、形状が複雑な製品を製作できるという利点があります。ただし、成形に関わる全ての作業が人の手によって行われるので、作業者の熟練度や経験によって、成形速度や成形品の質・強度などに大きな変化が生じてしまいます。

ハンドレイアップ成形技術のコツは通常、熟練者から非熟練者へと伝えられ、継承されます。しかし、コツは暗黙知である感覚的要素が強く、一般的に定量的な技術指導は難しいものです。そのため、作業者が一人前になるのには20年以上かかるともいわれています。

しかし、熟練者が持つ技術の暗黙知を形式知化(文章や図表、数式などによって説明・表現すること)できれば、非熟練者へ定量的な指導を行えます。これにより、技術者の早期育成が可能となるだけでなく、ロボットなどによるオートメーション化の発展にも寄与できます。

そこで、ハンドレイアップ成形技術の暗黙知の形式知化を目的とした、ハンドレイアップ成形の熟練者・中級者・非熟練者の成形工程の解析を行いました(調査対象者:熟練者・中級者・非熟練者 各1名)。特に、作業者の眼球運動に注目して調べました。

ハンドレイアップ成形の用途や技術資料をチェック!(イプロス製造業)

2. 熟練度による作業時間の違いと作業の特徴

ハンドレイアップ成形工程の解析では、まず作業ごとの所要時間を調査しました(図2)。

図2:ハンドレイアップ工程の作業時間分析結果

図2:ハンドレイアップ工程の作業時間分析結果(出典:三垣賢和、ハンドレイアップ成形法において熟練者が持つ暗黙知を形式知化するための工程分析、京都工芸繊維大学修士学位論文、2016年)

合計作業時間は、熟練者が947.5秒、中級者が1,086.7秒、非熟練者が1,138.0秒と、熟練者が最短時間で行うという結果になりました。熟練度による時間差が最も顕著だったのは脱泡作業で、熟練者は非熟練者の約半分の時間で脱泡を終えました。各被験者の脱泡作業の特徴は以下のとおりです。

非熟練者:脱泡ローラをかける時のストロークが常に短く、主に中心部にローラをかける

中級者:脱泡ローラをかける時のストロークが常に長く、上下左右と全体になじませることを心掛けている

熟練者:脱泡ローラをかける時のストロークは中心部が長く素早く、端部は短く緩やか。特に、端部は押し込むようにストロークする

熟練者に所作となる意図を確認したところ、中心部では樹脂の含浸と、ボイドを含んだ樹脂の排出を、端部では中心部から排出したボイドを含む樹脂の逆流を抑制していることが分かりました。

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3. 熟練者、中級者、非熟練者の脱泡作業時の眼球運動の違い

図3は、脱泡作業をする際に各被験者の眼球運動がどのような状態なのかを解析した結果です。

図3:各被験者の眼球運動測定結果

図3:各被験者の眼球運動測定結果(出典:三垣賢和、ハンドレイアップ成形法において熟練者が持つ暗黙知を形式知化するための工程分析、京都工芸繊維大学修士学位論文、2016年)

図中の赤丸で囲った箇所が作業者の視線を示しています。非熟練者は、ローラをかけている作業部位付近を注視していました。中級者は、作業部位の少し先を見ていました。これは、次にローラをかける部位を予測していると考えられます。熟練者も中級者と同じく、作業部位の少し先を見ていました。さらに、全体をなじませたあとに仕上がり具合の確認を行っていました。熟練者にその意図を尋ねたところ、脱泡作業をしながら含浸状態を確認しているとのことでした。このように、熟練者は成形する上で、非熟練者や中級者と比べてより多くの作業を行い、脱泡不全箇所の見落としを防いでいるのです。

実験の結果から、ハンドレイアップ成形における重要な工程は脱泡であることが判明しました。また、熟練者は脱泡作業時にローラよりも先を見ることで、次に脱泡する場所は素早く脱泡すべきか、緩やかに作業をすべきかを瞬時に判断していました。

これにより、非熟練者に指導する際は「次に作業を行う場所の状態を把握するために、ローラの先を見る」と伝えるのが良いことが分かります。熟練者の技を形式知化することで、非熟練者へ定量的な指導を行え、技術を上げることができるのです。

いかがでしたか? 今回は、ハンドレイアップ成形に熟練した職人の眼球運動解析を解説しました。これで、「データで伝える!熟練技術者の勘所」のコラムは終了です。本コラムが皆さんのお仕事のご参考になれば幸いです。これまでお読みいただき、ありがとうございました!

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