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富士ゼロックス、デジタルを活用したものづくり革新:日本能率協会2016ものづくり総合大会レポート

富士ゼロックス株式会社 モノ作り技術本部長 執行役員 鶴岡 亮一氏

(写真提供:日本能率協会)

2016年2月17日~19日に開催された日本能率協会主催の「2016ものづくり総合大会」。2日目には「技術・開発・生産をデジタル情報でつなぐプロセス構築に向けた取り組み」というテーマで、富士ゼロックス株式会社(以下、富士ゼロックス)モノ作り技術本部長 執行役員 鶴岡 亮一氏(以下、鶴岡氏)が講演を行いました。

品質事故を防ぐための取り組み、デジタルデータを活用しながら品質改善や開発期間の短縮につなげた取り組みは、読者の皆さんも学ぶ点が多いのではないでしょうか?

1. 発火事故から学んだ「予知・予防」の重要性

2002年のプリンタ発火事故

市場で富士ゼロックス商品の発火事故が発生したのは2002年の冬。原因は、プリンタの定着器内部のヒーターランプに電力を供給する、2種類の金属板接合部分のねじが緩んだことによる接触不良でした。この部分から異常な高熱が発生し、定着器近くのプラスチックレバーに熱が伝わり、発火に至りました。

この発火事故を受け、全社事故対策本部を設置し、事故発生の原因とメカニズムをあらゆる面から徹底的に究明した結果、市場での再発は避けられないと判断、「確率論ではなく、企業の社会的責任を果たす」ことを最優先して、同一構造を持つ全ての商品でリコールを行うことを決定しました。

企業風土の改革

この事故をきっかけに、「抜本的な企業風土の改革を通じ、発火・発煙事故を撲滅する」を最終ゴールとし、同様の事故を決して再発させないための各種対応策を策定していきました。

まず安全事故発生時のエスカレーション体制の再構築に着手、安全事故への24時間365日対応体制構築に加え、市場で大きな品質問題が起きると関係する役員や部長の携帯電話に即刻通知するシステムも導入しました。

安全設計の強化と体系化も並行して進め、実際の発火事故の原因分析から導いた発火メカニズムを核に発火リスクアセス項目を体系化し、システム安全設計基準を制定しました。具体的には、「発火のエネルギー源の排除・低減」、「発火のエネルギーを伝達するメカニズムの遮断」、「延焼の燃料となる材料の隔離」の3方針を制定し、設計指針として全開発部門に展開しました。

人材教育面では、階層ごとの安全教育制度を導入するとともに、セーフティ―マネージャー制度を新設。開発から品質、生産、営業、保守各領域に配置された国内外約80名のセーフティマネージャーが、安全設計品質の点検、市場トラブル情報の共有や再発防止策の展開などの役割を担っています。

この他、プリンター発火事故の教訓を風化させないために、品質と安全を考える日として10年ほど前から品質安全フォーラムを毎年開催しており、昨年は1,000名以上の社員が参加しました。発火事故再現機を含め、国内外の市場で発生した各種品質問題事例を展示し、参加者全員で品質と安全の重要性と、企業の社会的責任を果たすことの意味を再確認しています。

商品開発プロセスに「予知・予防」視点を

当社では、商品安全事故を契機とし、商品安全に関わるあらゆるリスクを初期設計段階に洗い出して摘み取るという「リスクの予知と予防」活動を進めてきました。そして、商品開発での手戻り削減に向け、リスク(不具合)は現物を作る前に把握し、対策を確実に作り込むという「予知と予防」の視点を商品開発プロセス全体に対して組み込む活動を始めました。

富士ゼロックス株式会社 モノ作り技術本部長 執行役員 鶴岡 亮一氏

富士ゼロックス株式会社 モノ作り技術本部長 執行役員 鶴岡 亮一氏(写真提供:日本能率協会)

2. 商品開発プロセスの実態に目を向ける

「手戻り」削減に向けて「Digital Work Way」を開始

2004年当時の商品開発プロセスは、まずとにかく試作機を作り、動かしてみて、発生した不具合を取り除くというサイクルを何回も繰り返すというのが実態でした。設計の不備に起因する問題が頻発、結果として手戻りが非常に多く、設計・試作・評価の繰り返しに膨大な時間をかけており、多くのロスを発生させていました。

設計段階での予知・予防活動が不十分だったという反省から、Digital情報をフルに活用して、開発・生産準備のフロントローディング化を図り、手戻りを発生させない商品開発プロセスの実現を目指し、全社的な活動を開始しました。モノづくりや実機評価のReal Phaseで「手戻り」を発生させる要因を徹底的に抽出し、上流のVirtual Phaseで設計品質を確実に作り込む開発スタイルへの転換にチャレンジ、13項目の主要施策を立案し、全員で共有し実践を始めました。

中核となった施策はDigitalデータ(3D CADデータ)を利用した、CAE/Simulation、DDIなどの「仮想品質点検プロセス」の構築と運用です。DDI(Digital Design Improvement)とは、Virtual Phaseで3Dデータを利用して、設計・生産準備・調達・生産・物流・品質管理などの各視点で、設計からのアウトプットを関係者全員で仮想品質点検をすることです。富士ゼロックスではこの一連のフロントローディング活動を、「Digital Work Way」と称しています。

図1:仮想品質点検プロセス(DDI)を取り入れた、設計品質の作り込み

図1:仮想品質点検プロセス(DDI)を取り入れた、設計品質の作り込み

「ワイガヤ」で意見を出し合い、全員設計

以前は保全性・安全性などの点検を個別に行うことに留まっていましたが、仮想品質点検を開始してからは、全員設計という理念のもと「ワイガヤ」の取り組みを始めました。実機作成前にCADデータをもとに予知視点で課題を抽出し、議論しながら対策を絞り込みます。その場にさまざまな部門のメンバーが集まり、いろいろな観点で「ワイワイ、ガヤガヤ」と意見を出し合い、全員がコメントし、全員で決め、全員がそれぞれの領域で責任を持つ仕組みです。

各種シミュレーションツールの活用

また、当社では設計初期段階で設計品質を確実に作り込むための有力な手段として、各種Digitalシミュレータを構築し、それを品質工学と組み合わせて活用しています。電子写真プロセス設計、メカ設計、エレキ設計、ソフトウエア開発、生産準備、物流設計などのさまざまな分野においてVirtual PhaseにおいてDigitalで評価を行い、結果を設計へフィードバックしています。

フロントローディング施策の効果

Digital Work Wayのかけ声のもと、各種施策を適用した新機種では、前任機に比べ商品開発期間を1フェーズ短縮することができ、設計変更件数・開発費用・開発期間いずれも数十%短縮することができました。何よりも、「モノをつくる前のVirtual Phaseで設計品質を確実に作り込む」という文化が社内に定着しました。また、活動開始時点で定めた13の施策を適宜見直し、本当に必要で継続する価値のある施策は何か、また実態にそぐわず、見直しをかけるべき施策は何かなど、施策を取捨選択することの大切さも学びました。

3. さらなる開発生産性の改善に向けて

不十分だった設計品質の作り込み

手戻り削減の各種フロントローディング施策や「ワイガヤ」の実施で、設計段階での品質改善が実現したことを受け、2009年以降、複数機種で新商品開発期間のさらなる短縮と投入リソースの削減に取り組みました。ところが、開発が進むにつれ機種ごとのQCD達成のレベルにバラツキが現れ、機種によっては開発期間が目標から大きく逸脱するものもありました。

原因を詳細に分析した結果、設計根拠が不十分なままで開発を進めている、設計の点検に十分時間を割けていない、フェーズゲートの審査が甘いなど、開発プロセス上の幾つかの本質的な課題が抽出されました。設計での品質作り込みが依然不十分だったことが浮き彫りとなり、開発の実態に見合うプロセスを再構築する必要に迫られました。

理想に向けて再チャレンジ

Virtual Phaseで設計品質を確実に作り込む文化は定着したものの、まだまだ本物になっていないという現実を受け、2012年以降「Digital Work Way Stage2」として、設計品質向上への再チャレンジを始めました。Virtual Phaseで設計品質を確実に作り込むことをさらに徹底し、モノをつくる前のVirtual期間に「手戻り」をやり尽くすにはどうすべきかを議論し、実践して行きました。

まず進めたのは開発期間の再定義です。それまでの開発期間の定義は「商品の企画提案をしてから量産を開始するまで」となっており、Virtual PhaseとReal Phaseそれぞれに、どのくらいの期間をかけるのかは不明確でした。このような状況に対し、各期間にやるべきことを再定義、Virtual Phaseで必要な設計期間を以前に比べ十分に確保した上で、その期間の過ごし方を全面的に刷新しました。DDIと設計審査のやり方を見直し、設計の進捗状況に応じ点検ステップを3段階に分け、Phaseごとの点検項目を再定義しました。設計審査では、変化・変更点に着目した点検を重視してDRBFM手法を全面的に取り入れるとともに、設計根拠をより確実に審査することに注力しました。並行して、派生開発機種群までを含めたプラットフォーム全体の設計審査も取り入れました。

一方、Digitalツールの更なる活用も進めました。Virtual Phase でのCAE/Simulationの適用項目を更に拡大するとともに、課題抽出の品質向上のため、Virtual Reality手法を採用した仮想実物大モデルを活用し、評価者が見ている視界を別モニタで投影して仮想点検するなど、リアリティを追求することで、仮想点検の活性化を図りました。

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図2:仮想品質点検プロセス(DDI)にものづくり要件も含めた、設計品質の作り込み

4. モノづくりにおけるフロントローディング

富士ゼロックスでは、モノづくり領域においてもDigitalデータをフル活用してVirtual Phaseでのフロントローディングを実践しています。設計情報だけでなく、部品・金型・検査・組立などのモノづくりに関わる経験値を形式知化・構造化し、各種要件チェックとして整備し、これらの情報をITツールに組み込み、3D Digitalデータと連携させることで、設計品質を作り込んでいます。過去推進してきた金型要件チェックツールを具体例として以下説明します。

金型要件チェックツールの概要

金型要件チェックツールとは、当社が独自に開発した金型の量産性を検証するクラウドツールです。従来人についていた金型に関わるベテランのノウハウを形式知化・構造化・標準化してITツールに組み込み、3D設計情報を入力することで量産出図前に金型の不成立箇所を自動チェックし出図前に量産性を検証するシステムです。設計者が設計途中の3D CADデータを金型要件チェックツールのサーバーにインプットすると、コンカレントに金型設計・製造要件をチェックし、金型の不成立箇所を自動的に計算・抽出し、設計者にフィードバックするという仕組みを構築しています。

プラスチック成型加工における金型のアンダーカット部や薄肉部、成形部品の厚肉・偏肉部、薄肉部などを自動検出し、画面上でチェック結果を項目ごとにOK/NGで表示し、内容を3D表示で設計者に示します。板金加工では、展開時干渉、曲げ高さ、穴の端面間隔の不具合や材料の歩留まり率などをフィードバックします。設計者は、金型要件チェックツールから返された不具合を生産技術者と相談しながら修正し、設計に反映するというサイクルを自ら繰り返していきます。

金型要件チェックツールの効果

当社では、ハードウエア設計に関わる全設計者に対して、金型要件チェックツールを活用することをVirtual Phaseでの必須要件として展開してきました。本ツール適用前は、量産図出図前後に仕入れ先からたくさんの不具合を指摘されていました。本ツール適用後は、社内での出図前不具合未然防止へと活動が変化し、適用機種が増えていくにつれて金型に起因する不具合の指摘件数は激減しました。最新機種においては仕入先からの量産図における金型に起因する不具合の指摘はほぼ撲滅することができました。

本ツールの活用により、ベテランのノウハウをDigitalツール上で共有し、開発段階の設計品質の向上と量産部品品質の確保に大きく貢献するとともに、気付きと学習を促進することで、設計者のレベルのばらつき低減にも寄与しています。

5. 技術・開発・生産をDigital情報でつなぐプロセスの構築

長年の活動の振り返り

当社では10年以上に渡り、Digital情報をフルに活用しVirtual Phaseで徹底的に設計品質を作り込む活動を続け、「予知・予防」視点でのフロントローディングプロセスを構築してきました。この活動の結果、従来に比べ、手戻りの大幅な削減を達成するとともに、機種ごとにバラツキがあった商品開発プロセスも標準化することができました。

QCD達成に向けて今後解決すべき課題は、まだたくさんありますが、ここに至るまでの過程を振り返ってみると、「リソース負荷が軽くやり直しが容易なVirtual Phaseにおいて、予知・予防の視点でいかにフロントローディング活動を充実させるかがQCD達成のカギである」ことが改めて認識されました。

以上のようなさまざまな商品開発プロセス改善への取り組みの結果、J.D.パワーアジアパシフィックのカラーコピー機顧客満足度調査にて、当社はラージ&ミドルオフィス領域で7年連続1位を獲得、評価項目の中でも商品カテゴリーでは特に高い評価を得ています。

今後も続く「予知・予防」

富士ゼロックスでは、設計・モノづくり領域の経験値を形式値化・構造化=「予知」し、Digital情報として点検ツールに組み込み、Virtual Phaseでの設計品質を更に向上=「予防」することで、より手戻りの少ない商品開発プロセス構築を目指しています。

また、当社が現在保有する富士ゼロックス生産方式(Fuji Xerox Production Way)、製造品質見える化システム(SCQM:Supply Chain Quality Management System)、市場品質管理システム(TQMS-Uni:Trace Quality Management System)や調達データ管理システムを連携させ、抜本的な開発生産プロセス改革へ踏み出しています。

さらに、部品サプライヤと情報をつなぐDigitalモノづくりプロセスや、生産ラインのあらゆるデータとICTを活用した生産システムの構築に向けて、富士ゼロックス流IoTを実現するための基盤づくりを進めています。あるべき姿の実現に向けて、富士ゼロックスは「予知・予防」の取り組みを今後も続けていきます。

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図3:デジタル情報を活用した、今後のモノづくりの方向性

参照:
日本能率協会 2016ものづくり総合大会ウェブサイト
日本能率協会 2017ものづくり総合大会ウェブサイト

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