イグノーベル賞物理学賞を受賞した北里大学教授の馬渕清資氏にお話を伺いました!
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イグノーベル賞インタビューLaugh and Think【第1回】バナナの皮の研究・北里大馬渕氏が考えるユーモアと独創的な発想の起源とは?

「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」に贈られるイグノーベル賞(Awards makes people Laugh and then Think)。今回は、2014年に「バナナの皮の滑りやすさ」を証明し、物理学賞を受賞した北里大学教授・工学博士の馬渕清資氏にお話を伺いました。

馬渕氏
北里大学教授・工学博士 馬渕清資氏

――ハーバード大学で行われた授賞式に「This is a banana~!」と叫んで登場し、天使にラブソングの替え歌で会場を沸かし大喝采を浴びていましたが、人を楽しませたり笑わせたりすることはもともとお得意な方ですか?

 馬渕清資氏(以下、馬渕氏):なぜ人間は笑うのか?、ダジャレがなぜおもしろいのか?ということを突き詰めると、まったく違う概念を重ねること、まったくかけ離れたものが突然つながることだというところに行きつきました。

サイエンスも普遍性がわかった瞬間におもしろさを感じます。バナナの皮の研究では、液体の粘液の成分と関節液との成分が似ていることを発見したときに、非常におもしろさを感じました。笑いとサイエンスについては切っても切れない関係性があると思っています。


イグノーベル賞授賞式での馬渕氏のスピーチ 約1分40秒 音あり(出典:YouTube)

 ――バナナの皮の滑りやすさを研究しようという発想は、かなり独創的に感じますが、研究することになったきっかけは何ですか?

馬渕氏:人工関節の研究をしていた1988年に、学生時代からの師匠である笹田直氏と共著で書いた『バイオトライボロジー―関節の摩擦と潤滑』という本の中での一文です。関節の滑りはどういう仕組みで摩擦を下げているかという解説を書いている中で、バナナの皮を踏んだ時の滑りの良さを連想させると記しました。

当時はあくまでも身近な例でわかりやすく説明するためのものでしたが、書いた後でこの一文が妙に気になりました。関節に関する摩擦係数の値はよくみるけれど、果たしてバナナの摩擦係数を正確に調べたものがあっただろうかと長年疑念を抱いたまま月日が過ぎていきました。

インターネットが普及し出した頃、バナナの皮の研究をした方がいるか調べてみたのですが、科学的に滑りやすさを実証した人が未だにいないことがわかりました。2010年頃、一念発起してバナナの皮の研究を開始したときにはこれはおもしろいことになるぞと最初から確信めいたものがありましたね。

本業が人工関節の研究でしたので、装置は大学に借りて実験を行いました。データを取るのは得意分野でしたが、ただ摩擦を計るのではなく、踏んで滑って、大きな力をかけたその瞬間だけを計るため、技術的には難しかったです。

ありふれた内容だけど、正確な数字を出すのは容易ではなかったですね。関節の摩擦を計る装置を使いこなすのが専門領域であったため、人工関節に携わる仕事をしていたことがバナナの皮の研究に大いに役立ったと思います。

 ――実験で実証されたバナナの皮の滑りやすさについて教えていただけますか?

 馬渕氏:バナナは皮の内側に小さな粒が集まった構造でできています。踏み潰したり押したりすることで粒から粘液が出てきて一体化し、さらに全体が一つの液体になることで、バナナの皮特有の滑りやすさが生まれます。これを「小胞ゲル潤滑」と名付け、普通の靴底で歩く際の摩擦係数0.412に比べ、バナナの皮を踏んで滑った時の値は0.066と5~6倍も滑りやすくなることを証明しました。

イグノーベル賞のスピーチで使用したパネル
イグノーベル賞のスピーチで使用したパネルとバナナを持つ馬渕氏

 ――人工関節については、もともと興味があったのですか?

 馬渕氏:もともとは虫と小動物が大好きで、物心ついた頃には虫と小動物の世界に頭半分どっぷりと浸っていました。一日中虫を観察して過ごして、桜の木に付いた毛虫を口の中に入れる得意技で友達を驚かせたりしている子供でした。

小学校高学年になると、夏休みや休みの度に岐阜県の「名和昆虫博物館」に一週間ほど住み込みで過ごして、名和秀雄先生のもとで生物について学びました。中学の時にはリスを飼ったり、高校の時は大きなオウムを飼ったりもしていましたね。オウムの存在からは生命について学ばせてもらいました。

高校生になった時に、昆虫だけでは食べていけないと打算的な感情が働いて、もともと得意だった理系分野を活かして工業大学に進学を決めました。しかし、入学後は工業の実用性の高いことに対して全く興味がわかず、勉強もせずに投げやりになっていました。

そんな頃に指導教官が研究テーマとして持ってきた人工関節の研究に出会いました。もともと自然の領域や持ち分を侵すものは好きではないのですが、人工関節は壊れてしまった関節をもとに戻すことにサイエンスが踏み込んでも自然のバランスを壊すことがないところが良かったのかもしれないですね。

そこから当時では珍しかった医療と工学の中間領域である人工関節の研究に取り組んでいくことになりました。

――今、気になることや研究したいテーマはありますか?

 馬渕氏:何でも世界を広げないと気が済まないたちで、今いる状況よりいつも世界を広げておきたい。その欲求はすごくあります。毎日その繰り返しです。講演会や本を書くときも同じ話や同じことができない。

何でもかんでも広げてしまうので、むやみに広がる時もありますが、逆に深くなることもあります。単純に脳の機能を解放しているだけですけどね。脳科学、地球温暖化、恐竜絶滅についてなど気になることは、次から次へと出てきます。

――モノづくりに携わるTech Noteの読者に向けて一言お願いします。

 馬渕氏:夢はどこにあるかを明確にすることじゃないですか?実用性というのは混沌とした目も鼻もないただ役に立つという世界。実用性だけを追求していくと脳が飽きてくるでしょう。

サイエンスの要素も少し取り入れることで脳が開花するのではないでしょうか。実用性の混沌の中から上澄みをすくい取ったものがサイエンスというものです。

――なるほど。目標を持ちつつも、いつもと違った目線を持ったり、新しいことに取組むことは大事ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

馬渕氏とイグノーベル賞の賞状と盾
イグノーベル賞の賞状と盾と一緒にパチリ!
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