メニュー

若手が挑戦できる風土づくり:日野自動車株式会社・田中明夫氏【現代の名工インタビュー3後編】

現代の名工は、厚生労働省が「極めて優れた技能を有し、他の技能者の模範と認められた技術者」を表彰する制度です。日野自動車株式会社の田中明夫氏は、自動車の試験用部品作成における打ち出し板金・溶接技術で、2016年に現代の名工に表彰されました。後編では、若手技術者を指導するための心構えや、若手技術者へ向けたアドバイスを伺いました。

田中明夫氏【現代の名工インタビュー3後編】

受賞理由:試作車の車体組立に精通しており、優れた技能を有している。特に打ち出し板金作業における立体形状出しや外板面の仕上げ作業において、卓越した技能を有している。また、板金加工に不可欠な溶接技能も講師を務めるなど、社の第一人者である。工場板金職種の技能検定委員を首席も含めて13年間務め、実技試験の実施に貢献するとともに、後進技能者の育成に多大な功績を残している。

1. 仕事に自分の思いを込める

――田中さんは、指導者としても高い評価を受けています。若手技術者が成長するために、業務で意識すべきことを教えてください。

田中 明夫氏(以下、田中氏):仕事を自分事として捉え、自分の思いや考え、工夫を加えながら、自ら進んで業務に取り組むことが大切です。私の経験では、仕事を始めて3、4年経った頃、仕事を任されるようになりました。その時に、こうやった方がいいのではないかと自分なりに工夫して、自分のアイデアを仕事に取り入れるようにしたのです。すると、仕事がどんどん楽しくなりました。遊び心というと言い過ぎでしょうか。前編で話した自主練も、先輩からの指示ではなく、自分から進んで練習したことが、モチベーション維持や技術力向上につながりました。

若手技術者は、言われたとおりに仕事を進めるだけでは成長できません。仕事を任されるようになったら、自分の気持ちやアイデアを製品に入れ込むなどの挑戦を自主的に行ってほしいですね。そのためには、上司や周りの先輩が、挑戦できる雰囲気を作ることも大切です。

2. 指導者としての心構え

――自身で考えて工夫することで、仕事が楽しくなり、技術力も身に付くのですね。若手が自ら考えるように、教育で工夫していることがあれば教えてください。

田中氏:板金や溶接の技術は言葉で伝えにくいので、教えるのが難しく、苦労しています。私も経験しながら技術を習得したので、他人に教えるのが難しいのです。若手に対しても、経験を積ませるように意識しています。いろいろな製品に携わらせて、手を動かして作らせるようにしてきました。やってもらうのが一番ですね。最近の若い人は素直で、真面目に取り組んでくれます。

自由にモノづくりができる環境にするため、雰囲気づくりにも力を入れています。小さなバスの模型や、花を作ったりすることを課題にして、モノづくりの楽しさを感じてもらうようにしました。

板金加工で作成した模型

板金加工で作成した模型

新人教育で意識していることは、できなくていいと伝えることです。打ち出し板金は、最初はできないのが当たり前です。板金だけでも覚えることが多いのに、溶接も練習しないといけません。失敗を怒らない雰囲気を作るなど、モノづくりを楽しめる組織にしたいと考えています。先ほど話した、挑戦できる雰囲気作りにつながります。

――若手が緊張せず、モノづくりを楽しみながら作業に取り組めることが大事ですね。後進の育成で、他に取り組んできたことはありますか?

田中氏:社内だけでなく、社外での教育にも取り組んできました。工業高校の専門校生徒などを対象にした3級曲げ板金作業の立ち上げ技術技能検定委員として参加したり、日野工業高等学園(企業内訓練校)で検定形式の課題製作を行ったりしました。また、フロリダ州やテキサス州の現地スタッフに、アーク溶接の実践指導も行いました。

社外での教育活動が評価されて、現代の名工を受賞できたのかもしれません。技術力だけでいえば、私より高い技術力を持った技術者は、会社の中に大勢います。

3. 失敗を恐れず挑戦する

――最後に、Tech Noteの読者、特に若手技術者に向けて、一言お願いします。

田中氏:技術を高めるためには、自分で努力して手を動かすしかありません。やらされ感でやっていては、仕事がつまらなくなるだけです。こうやった方がいいのではないかと自分で考えて工夫し、自分の思いを込めて仕事に取り組んでほしいです。

板金加工技術は、長い年月をかけて修得する技術です。もしかしたら、若手技術者の中には、ロボットが板金加工や溶接加工の仕事を奪ってしまうと心配する人もいるかもしれません。しかし、手作業による板金・溶接加工技術は、今後のモノづくりでも必要です。自動車製造では、製品の性能や品質を向上させるために、常に部品を見直し、改造に取り組みます。試作車を作るためのプレスの型はないので、全て手作業で作らなければいけません。失敗を恐れず手を動かして、さまざまな製品に挑戦して技術を磨いてほしいですね。

自分の思いを込めることが大事と語る田中氏

自分の思いを込めることが大事と語る田中氏

――若手技術者が成長するためには、創意工夫しながら挑戦し続けることが大切なのですね。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

  • 基礎知識を社内で利用したい方

ピックアップ記事

tags