日本武尊にハトが寄ってこなかったワケ
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ハトが寄り付かない銅像!?日常の発見が研究に活きる:廣瀬 幸雄氏【イグノーベル賞インタビュー Laugh and Think 第6回】

「人々を笑わせ考えさせてくれた業績」に贈られるイグノーベル賞(Awards makes people Laugh and then Think)。今回は、2003年に「ハトに嫌われた銅像の化学的考察」で化学賞を受賞し、鳥を寄せ付けない合金を発明した金沢大学 名誉教授の廣瀬 幸雄氏にお話を伺いました。

ハトが寄り付かない銅像!?日常の発見が研究に活きる:廣瀬 幸雄氏【イグノーベル賞インタビュー Laugh and Think 第6回】

金沢大学 名誉教授 廣瀬 幸雄氏

1. 兼六園の日本武尊像には、ハトが寄ってこない!?

──「ハトに嫌われる銅像」というのは独創的な発見です。研究を始めたきっかけは、何だったのですか?

廣瀬 幸雄氏(以下、廣瀬氏):大学生の当時18歳の時、金沢市の兼六園にある日本武尊(やまとたけるのみこと)像を見て「周りの木にハトがたくさん止まっているのに、なぜ銅像には寄ってこないのだろうか」と疑問を持ちました。それ以来、疑問は持ちつつも、研究するには至りませんでした。

それから30年ほど経った45歳の時、研究するチャンスが訪れました。日本武尊像の台座に亀裂があることが分かり、改修を行うことになったのです。私の専門研究分野が、飛行機事故の原因となる機体の亀裂・ひび割れだったこともあり、銅像の修理・改築の委員に選ばれました。これをきっかけに、ハトの寄り付かない銅像の研究を開始しました。

兼六園にある、ハトが寄り付かない日本武尊の銅像

兼六園にある、ハトが寄り付かない日本武尊の銅像

──具体的には、どのような研究ですか?

廣瀬氏:最初に「これだ」と思ったのは、フォーブスの『古代の技術史』という本を翻訳した時でした。銅像を造るとき、融点を下げるために銅にヒ素や鉛を混ぜます。この本には、ヒ素や鉛が入っていると鳥が近寄らないと書いてあったのです。

しかし、同じ銅像でも、東京の上野にある西郷隆盛像では、鳥のふんが目立ちます。そこで、それぞれの銅像の成分を分析すると、西郷隆盛像はヒ素と鉛の含有量が約3%だったのに対して、日本武尊像には約15%も含まれていました。

ヒ素が多いと鳥が近寄らないのではと考え、さっそく日本武尊像と同じ成分の合金を作り実験をしました。金沢駅の前に、エサと一緒にその合金を置いておくと、予想通りハトは寄ってきませんでした。

なぜヒ素が含まれると鳥が寄り付かないのか、詳しいことは分かっていません。1つの理由として考えられるのは、電磁波です。ヒ素や鉛と銅などの異種金属をくっつけることで、電位差により電気が流れ、磁場が発生します。これが鳥の方向感覚を狂わせている、もしくはヒトには見えない電磁波が鳥には見えていて、それを恐れていることも考えられます。

他にも、匂いが原因なのではないかと考え、金魚鉢の中に合金を入れてみました。しかし、金魚は元気に泳いでいました。これは、ヒ素が溶け出していないということなので、匂いが原因ということは考えられません。このようにさまざまな理由を考え、実験を行いました。

イグノーベル賞授賞式でスピーチを行う廣瀬氏<写真提供:廣瀬氏>

イグノーベル賞授賞式でスピーチを行う廣瀬氏<写真提供:廣瀬氏>

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2. 研究は実用化されてはじめて成功

廣瀬氏:この研究は、実用化されれば、鳥の鳴き声やふんで悩んでいる人に役立つでしょう。しかし、ヒ素という有毒物を使用するので、なかなか実用には至っていません。私は、どんな研究や技術も、いろいろな人に使われなければ成功とはいえないと思っているので、何とか実現しようとしています。

 ──研究の結果、実用化されているものは、ありますか?

廣瀬氏:私はコーヒーが好きで、水素で焙煎するコーヒーを発明しました。真空に近い無酸素状態において、500℃に達する過熱水蒸気で焙煎し、そこに水素を入れることによって、水素がコーヒー豆の中に入ります。ふつうは酸素で焙煎するため、豆が酸化してしまい味がすぐ変わってしまいますが、水素焙煎コーヒーはほとんど味が変わりません。

他には、水素を発生させるセラミックも作りました。石川県の山中温泉の成分には、水素が大量に含まれています。その地中深くの石と、同じ石川県の医王山から採れる戸室石というミネラルを日本一含む石を混ぜ合わせることで、水素とミネラルを発生させることができます。

日本コーヒー文化学会副会長を務める廣瀬氏の研究室には、さまざまな焙煎のコーヒー豆が

日本コーヒー文化学会副会長を務める廣瀬氏の研究室には、さまざまな焙煎のコーヒー豆が

1個で約1か月のあいだ水素を発生させる山中温泉水

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3. 日常のさまざまな経験の積み重ねが活きてくる

──実にさまざまな研究に取り組んでいるんですね。専門以外の研究も多い中、どのようにアイデアを生み出していますか?

廣瀬氏:発想の原点はノートです。人と会って話したことで、興味のあることはすぐにノートに書くようにしています。1年間で100冊、多いときは1日で2冊書くこともあります。この1冊のノートの中に、最低でもアイデアは5個、知識は100個入っています。この積み重ねが、発明のタネになっているのです。

──最後に、モノづくりに携わるTech Noteの読者に向けて、アイデアをかたちにしていくためのアドバイスをお願いします。

廣瀬氏:人は知識だけでは忘れる生き物です。何を見て、何を体験したかが重要になります。吉川栄治『宮本武蔵』の中で出てくる「我以外皆師」という言葉を大切にしています。たとえ道に転がっている石でも師であり、そこから何を感じとるかが重要です。日常の中で、「あれ、おかしいな」と少しでも気が付くことが、モノづくりに活きてきます。キザな言い方ですが、研究で壁にぶつかったとき「ここはこうじゃないか?」と、どこからか語りかけられるような気がします。それは、たくさんの経験を積み重ねた結果だと私は思います。

また、不可能はないと考えることです。私の周りでも「やったってしょうがない」と、やる前に諦めてしまう人がいます。やってみなければ分からないし、不可能はないんです。こんな考え方を大切にしてほしいですね。

──生活の中で、小さなことにも疑問を持つこと、そして何事にもチャレンジしていくということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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